Lu Hsun's Discovery of "Eat people" (吃人) in "A Madman's Diary"

I.『狂人日記』における「吃人」の展開および経書の位置 II.ロシア近代小説-ゴーゴリ、ガルシン、アンドレーエフ-の影響 III.辛亥革命前における魯迅と史書 IV.『資治通鑑』の閲読と「吃人」の発見 V.「吃人」の余韻魯迅(本名周樹人、字(あざな)は予才、1881-1936)が1918年5月の雑誌『新青年』4巻5号に発表した『狂人日記』をもって中国近代文学の開幕とすることについては、すでに定説となっている。内容においては、彼は「吃人」、人間が人間を喰うという思想をメスとして、「家族制度と礼教の弊害」という、悠久の歴史と茫莫の社会に盤踞している怪物に切りこんでいった。文体においては、現在ではすでに古風であるが当時においては新鮮と思われたであろう口語によっている。もっとも、序文を文語であらわし本文の日記の部分を口語でしるしたことには興味がある。そこには、序文は文章であるがゆえに社会通念に従って文語で、本文は個人的な独白であるがゆえに口語で、とすることによって、読者との不必要な摩擦を予防しておくという配慮、「狂人」が治癒したあとに復帰した社会がとりもなおさず文語的世界であったとする象徴的な技法、などがうかがわれるからである。ところで、『狂人日記』にたいする先人の言及は、文字どおり枚挙に遑がないが、全般的には、「家族制度と礼教の弊害」にたいする批判を「吃人」の思想にもとづいて、西洋近代文学の影響のもとでおこなったとし、その影響のありかを追求する方向に議論が傾いているように思われる。そのことじたいに疑惑をさしはさむわけではないが、西洋近代文学の閲読から「吃人」の発見へと結びつけるのはいささか短絡にすぎるのではないか。「吃人」が当時の中国の社会のみならず歴史にたいする発見ででもある以上、そこには歴史の書物との格闘があったはずで、その点をもうすこし掘りさげておく必要があるのではないか、というのが、わたくしがこの稿をおこす動機である。ch.I. The development of "Eat people" and the situation of the classics in "A Madman's Diary" ch.II. The influence of modern Russian novels-the works of N. Gogol, B.M. Garshin and L. Andreev- ch.III. The relation between Lu Hsün and histories in the period before Hsin-hai (辛亥) Revolution ch.IV. Lu Hsün's reading of "Tzu Chi Tung Chien" (資治通鑑) and his discovery of "Eat people" ch.V. The following events of "Eat people